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高松地方裁判所 平成4年(ワ)149号 判決

原告

宮宇地信子

宮宇地裕美

右両名訴訟代理人弁護士

西尾文秀

被告

宮宇地美代子

右訴訟代理人弁護士

木田一彦

主文

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

遺言者宮宇地繁光(本籍 高松市屋島中町五一二番地、明治四一年二月一六日生)作成の昭和四二年三月六日付自筆遺言証書は無効であることを確認する。

第二事案の概要

一本件は、相続人の一部である原告らが、被相続人名義の自筆遺言証書は、これと抵触する遺言後の生前処分により、民法一〇二三条二項に基づき、不可分的に取り消されたものとして、右遺言により包括遺贈を受けた被告に対し、遺言が無効であることの確認を求める事案である。

二争いのない事実

1  宮宇地繁光(明治四一年二月一六日生、以下「繁光」という。)は、平成元年一〇月一九日死亡したが、同人の相続関係は、別紙身分関係図のとおりである。

2  遺言者繁光は、昭和四二年三月六日付自筆遺言証書(本件遺言)を作成し、被告は、平成二年三月二三日、高松家庭裁判所において、本件遺言書一通の検認を受けたが、その内容は、「繁光は、別紙物件目録一、二、三記載の各不動産その他の債権の全てを被告に遺贈する。」というものである。

3  繁光は、本件遺言後、昭和四五年七月から昭和六二年七月にかけて、別紙物件目録二記載の各不動産を第三者に売却し、昭和五三年ころ、別紙物件目録三記載の各不動産を取り壊した(生前処分)。

三争点

1  原告らは、本件遺言は、繁光のその後の生前処分等により、民法一〇二三条二項により、不可分的に取り消されたものとして、遺言無効確認を求める。

2  被告は、繁光の生前処分により取り消されたのは、別紙物件目録二、三記載の各不動産にかかる部分のみであり、その余は有効である旨を主張する。

3  したがって、本件の争点は、繁光の生前処分により、本件遺言の全部が不可分的に取り消されたものといえるか否かである。

第三争点に対する判断

一証拠(〈書証番号略〉、原告信子、被告本人の尋問結果、弁論の全趣旨)に前記争いのない事実を総合すれば、以下の事実が認められる。

1  別紙物件目録一記載の各不動産の面積は6966.15平方メートルであり、同二記載の不動産の面積は1522.91平方メートルである。

2  別紙物件目録二1、2記載の不動産は、昭和四五年七月七日、中川澤二から売却を依頼されて売却したもの、同3、4記載の不動産は、昭和五〇年八月一一日、当時繁光に収入がなかったため、宮宇地繁雄に売却したもの、同5、6記載の不動産は、昭和五三年三月一日、後記建物の新築代金の支払いのため、安富俊明に売却したもの、同7、8記載の不動産は、昭和六二年七月七日、大一不動産株式会社から売却を依頼されて売却したものである。同3記載の不動産以外は、すべて売却時は農地(田または畑)であり、売却後に宅地に地目変更されたものである。

3  繁光は、昭和五三年ころ、別紙物件目録三記載の各不動産が建築後一〇〇年以上経ち不都合が多いことからこれを取り壊した。また、繁光は、昭和五四年ころ、建物を建築したが(未登記)、右建物については遺言がない。

4  繁光は、かねがね死ぬのに土地を持っていても仕方がないと言っており、また、遺言を書き直そうとも言っていたが、これをしないまま死亡した。なお、繁光は、死亡前二、三年は寝たきりであった。

5  本件遺言書は、一部破損していたが、高松家庭裁判所において検認のうえ、被告が、平成二年四月二〇日、本件遺言の執行者に選任された。

6  繁光の遺言は、別紙物件目録一記載の各不動産のほか預貯金が二五〇〇万円程度であり、被告が現在宮宇地家の祭祀を執り行っている。

7  被告には子がなく、妹二人が相続人である。

なお、、原告信子は、被告と繁光夫婦の仲が悪く、病気の夫の世話をしていなかった旨を供述するが、右供述部分は、被告本人の夫婦仲は普通だった旨の供述に照らし、たやすく信用できない。

二ところで、民法一〇二三条二項は、遺言と遺言後の生前処分その他の法律行為とが抵触する場合には、その抵触する部分につき遺言を取り消したものとみなす旨を定めたものであり、遺言と生前処分が抵触するときは、抵触する範囲において撤回されたものとみなされるのが原則である。また、民法一〇二三条二項の法意は、遺言者がした生前処分に表示された遺言者の最終意思を重んずるにあるはいうまでもないが、他面において、遺言の取消は、相続人等の法律上の地位に重大な影響を及ぼすものであることにかんがみれば、遺言と生前処分が抵触するかどうかは、慎重に決せられるべきである(最高裁判所昭和四三年一二月二四日第三小法廷判決、民集二三巻一三号三二七〇頁参照)。

これを本件についてみるに、別紙物件目録二、三記載の各不動産については、抵触する生前処分により本件遺言を取り消したものと見るべきであることはいうまでもないが、その余の部分については、前記一認定の、売却した不動産と遺言に記載された不動産の面積の比率、繁光が生前処分にいたった事情、繁光と被告との間に子がなく原告らとは伯父甥、伯父姪の関係であるとの家庭状況等の事実に照らせば、繁光が本件遺言の全部を取り消したものとみなすことは困難である。

してみれば、本件遺言は、抵触する生前処分によりその全部を不可分的に取り消したものとはいえず、その余の部分についてはいまだ有効と認めるのが相当である。

三よって、主文のとおり判決する。

(裁判官髙部眞規子)

別紙物件目録一

1 高松市屋島中町字新開三四〇番一

田 390.00平方メートル

2 右同 町字窪田五一二番一

宅地 551.15平方メートル

3 右同 町字窪田五一三番一

畑 683.00平方メートル

4 右同 町字窪田五一三番二

雑種地 15.00平方メートル

5 右同 町字内畑五五六番

田 1150.00平方メートル

6 高松市屋島西町字百石一九三九番一

田 1451.00平方メートル

7 右同 町字百石一九四〇番一

田 1325.00平方メートル

8 右同 町字百石一九四五番一

田 1386.00平方メートル

9 右同 町字百石一九四五番三

雑種地 15.00平方メートル

別紙

別紙物件目録二

1 高松市屋島中町字内畑五三八番二

宅地 31.25平方メートル

2 右同 町字内畑五三九番

宅地 206.93平方メートル

3 右同 町字窪田五一〇番一

宅地 78.15平方メートル

4 右同 町字窪田五一〇番二

宅地 74.00平方メートル

5 高松市屋島西町字百石一九四五番四

宅地 318.10平方メートル

6 右同 町字百石一九四五番五

宅地 12.49平方メートル

7 高松市屋島中町字浜畑三〇一番一

宅地 607.28平方メートル

8 右同 町字浜畑三〇一番三

宅地 194.71平方メートル

別紙物件目録三

1 高松市屋島中町字窪田五一二番

家屋番号 右同町三三番

木造草葺平家建居宅

114.04平方メートル

(付属建物の表示)

符号1 木造瓦葺平家建物置

96.52平方メートル

符号2 木造瓦葺平家建鶏舎

44.62平方メートル

2 高松市屋島中町字窪田五一二番

家屋番号 右同町三三番の二

木造瓦葺平家建居宅

49.58平方メートル

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